サッカークラブはキャリアの「実験場」になる。|森 頼弥|BlurBra Inc. 取締役 COO|東京都社会人サッカー

前職のプロデューサーから、スタートアップの COO へ。森頼弥氏のこの 3 年間は、キャリアの地図を一度白紙に戻し、自らの足で道を切り拓く旅路だった。

学生が運営する社会人サッカーメディア Camffice。本取材は、森氏への二度目のインタビューである(一度目の記事は末尾にリンクあり)。前回から 3 年。仕事の立場も、見えている景色も大きく変わった森氏に、キャリアの築き方、その根底にある価値観、そして社会人サッカークラブが果たす役割について話を聞いた。

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Profile

森 頼弥(もり らいや)
34 歳(取材時)
BlurBra Inc. 取締役 COO

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PR の違和感から、ブランディングの世界へ

はい。前回取材をしていただいた時は、今 BANDELIE のパートナー企業でもある PIVOT という会社に在籍していました。PIVOT では、主に企業の商品やサービスのプロモーション、PR、広告などを主な業務としていて、具体的に言えば、取引先の企業の新しい商品をどのように訴求し、ターゲットに伝えるかを企画設計からクリエイティブ開発、制作、運営なども含めてトータルプロデュースする事業を行なっていました。その中で、当時私は、プロデューサーという肩書きで、プロジェクト全体をまとめる役割を担い、仕事に取り組んでいました。

ただ、仕事に奔走していく中で、そういった、企業の商品を売る方法を考えていくということを、本質的に捉えたときに、違和感を感じることがありました。というのは、特に大きな企業になると、経営側とは離れた方達が自分たちに発注をして頂くことが多いです。そうすると、会社には、その会社の思想、カルチャーがあり、商品には、その商品の強みや価値観があるにも関わらず、そういったブランドよりも優先して、成果を上に話す必要があるので、KPI や、数字、そうした定量化される部分にフォーカスした部分で PR の発注を受けてしまうという実情がありました。

全てではないですが実際には、本質的な意見よりも目先の成果を追うことが少なくなかった。クリエイティブにおいてもルールが定まっておらず、コントロールしきれないまま迷いや手戻りが多く発生する。ブランドをプロモーションしていくには、もっと根幹から設計していかないといけない――そういう考えが、ずっとありました。

確かにそうした商品の PR の方法は、商品が一時的に売れ、数字が伸びたとしても、あくまでそれは一過性のもので、その方法が真に企業のブランドを確立させ、長期的な成長に寄与しているのかという点での問題意識の元、中小企業や創業期の会社は尚更できていない(できないことが多い)ことが多いんだろうなと持っていました。

そうした問題意識を抱えながら、可能性を模索しているときに、現在取締役をしている BlurBra の代表・平川と 2020 年に出会いました。BlurBra は、そうした商品 PR からもっと上流の根本的な部分で、企業のブランドの価値観やビジョン自体を取り扱っていました。そしてそれを対外的に見据えていくためにも、デザインという技法を使い表現的に提供していくという、ブランディングとデザインを行なっている会社で、企業と顧客の間にある、業界の課題を解決していく会社の姿勢を感じました。

実は、こうしたモヤモヤは 2018 年頃から抱いていました。ブランディングを重視した転職も考えつつ、事業開発ができる会社に転職し、経営企画・マーケティング領域を経験した後に PIVOT を立ち上げた。ちょうどその頃、ブランディングとデザインをやっている人を探していて、共通の知人を通じて 2020 年から仕事の受発注関係として平川と一緒にやるようになりました。価値観が同じで、かつ、平川は初期フェーズを、私は後半フェーズのブランディングを担っていた。一貫したプロセスを経験している二人だからこそ組める。そう感じて、2024 年から社外取締役として新規事業に踏み入りました。

そうして COO という経営の立場で移ってきて、今に至るというのが、簡単なキャリアの流れですね。

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新規事業「PitchPark」が目指す未来

現在、BlurBra では「PitchPark」というアイデアプラットフォームを開発しています。日常の気づき、妄想、「あったらいいな」という思いつきの種を、誰でもアイデアへと変えられる仕組みです。

(構造は図を参照)

今はアイデアを出すという装置ですが、目指しているのはその先にあります。世界中の人のアイデアが国境を越えて繋がり、そこから素敵なサービスやプロダクトが生まれる世界。具体的には、プラットフォーム内でアイデアを募ったり、売買できたり。AI だけではなく、人間の想いや感情も乗せて、世界でアイデアが循環する未来を設計していきます。

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スタートアップ COO という “原野”

BlurBra は、大きな社会や業界の課題を自社のサービスを使って解決していく事を目的に、出資はもちろん、様々なプロフェッショナルの方に頼らせていただきながら経営と事業開発を行っています。そうしたスタートアップ企業の COO をやっていくのは、今までやってきたことから、180 度くらい考え方ややり方を変えて、やっていかなければ通用しないなという風に痛感していますね。

「180 度くらい考え方ややり方を変えて、やっていかなければ通用しない」

今までは一企業の中で役割を果たしながら、私生活含め、そのバランスを考えながら、日々をいかに充実していくのかという事を考えながら過ごせていましたが、今の一企業の進む方向を決めていく立場というのは、社員の人生や企業や取引先の行先、あらゆる責任が発生しますし、今までとのマインドセットとは全く違い、ある組織構造の中で仕事をしながら、個人の範囲で役割を考えていくというよりは、様々な対象に対して全ての責任感を持ちながら、原野の中を手探りで進み、試行錯誤を繰り返して進み続けているという感覚ですよね。

まだまだ肩書きだけではありますが、COO という立ち位置は、CEO の考えるビジョンや計画に対して最適解を模索し、構築と実行を内部・外部と連携しながら目標に対してアクションし続ける立ち位置です。そのためには、ものすごく泥臭いことも地味なこともたくさんします。仮説をすぐに立てては動いてみる、ダメなら立て直す。この手探りの繰り返しです。

そこには厳密にはたくさんの人が関わっていて、実は BANDELIE 経由で繋がった人が 8 割といっても過言ではありません。言い換えると、原野に飛び込もうと思えたことや、ちょっとした不安も払拭できて今チャレンジできているのも、その人との繋がりがたくさんあったことが一番大きいかもしれません。

結構なんでもビビらず突っ込むタイプなのですが、結婚も子供も授かっているタイミングでもあり、かなり自己分析をしてから人生を賭けて進もうと思った決断でもあります。

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自己分析とは、心の揺れ動きを感じ取ること

私にとっての自己分析は、普段、仕事や生活を行っているときに、何に充実感を覚えて、何を嫌だと感じてしまうのか、その心の揺れ動きを都度感じ取っていくという事ですね。

「心の揺れ動きを、都度感じ取っていく」

若い時から、仕事をしながら、自分の感情や、行動を俯瞰して客観的に見る癖がありました。そういう習慣の積み重ねで、年を重ねるごとに自分自身がどういう人間なのかがだんだん分かるようになってきましたよね。自問自答を続けてきた習慣は、長い時間経過の中で、今を支えていると思います。

しかし、まだ 35 歳です。ビジネス界では未熟な経営者です。「分かってきた」と言いましたが、そのほとんどは良いことではなく課題です。たまには自分を褒めたり肯定することは重要ですが、若い時に調子に乗って足元を掬われることがあったので、今は自分に厳しく接しています(笑)

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人ありきのキャリア、人ありきの社会

そうですね。人を大切にするという事ですね。人に対して敬意を持って接したり、助け合いの姿勢だったり、そういう想いはとても大切にしていて、その価値観は若い頃からぶらさずやってきたと思います。まさに今、AI やデジタル技術の進歩で多くのことが自動化されていますが、だからこそ、人と人が関わる時間や空気感、感情や想いといった部分に、これからはより大きな価値が生まれると考えています。

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サッカークラブは “リスクなき実験場”

仲間と共に協力しながら、チャレンジを繰り返し、実体験の中で社会人として、成長していける場ですよね。言い換えると、組織の一員として、実験や失敗を繰り返しながら成果を得るという経験を、全てではないですがリスクを持たない形で再現できる環境であると感じます。

厳密にはリスクはあります。ただ、それを様々な社会人が支えながら推進する仕組みがある。この Camffice もそうだと思います。

「実験や失敗を繰り返しながら成果を得るという経験を、リスクを持たない形で再現できる」

具体的に言えば、会社という組織の中では、コストや、利害関係の問題で、中々個人の主体性だけでは物事を動かしていけない問題があります。ただ社会人サッカークラブではそうした利害関係が大きく介在している訳ではないので、一発言にしろ、マネジメントや組織構築、広報や色々なイベントの試作などもそうですが、成功するかは分からないが、とりあえず組織の為に、アクションを起こしてみるべき不確定要素の高いものに対して、個人の責任で手をあげて、挑戦しやすい環境ですね。

特に、私の関わってきた FC.BANDELIE はそうした挑戦的な取り組みに周りが協力的で、助けてくれる風土の強いサッカークラブなのではないかなと思います。だからこそ、クラブの、挑戦しやすい環境で得た経験を、社会人生活で実際に応用しながらも成長に繋げていけるというような大きなメリットをクラブに関わりながら感じます。

実際に、2020 年にはパソナ・さいたまの高田遼さんと共に「サクラソウプロジェクト」という地域共創型の取り組みを企画しました。コロナ禍で「夏の思い出」を奪われてしまった子どもたちに、楽しい思い出や明るい未来を届けたいという想いから始まったプロジェクトです。BANDELIE からも代表の岸をはじめ 3 名が運営サポートに駆けつけてくれて、戸田市内の保育園でサッカー教室やワークショップを開催しました。こうした活動が実現できたのも、クラブの「まずやってみよう」という風土と、そこで繋がった仲間がいたからこそです。

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異業種が交わる場所をつくる

そうですね。私は、クラブ側、パートナー企業側、両面からこの取り組みについては、触れているのですが、BANDELIE は東京都 1 部(現在は 2 部)で、まだまだ、J リーグのクラブのように広告価値が出せないといった時に、他の視点でどのような価値提供をパートナー側にもたらすような取り組みが出来ていくのかですよね。その価値提供の方法は、まだまだ試行錯誤の最中です。

ただ、この問題も、トライアンドエラーの中で常に改良していく思考を組織で持ちながら、良い形に昇華していければと思っています。個人的には、色々な中小企業やスタートアップ企業が、このサッカークラブをサポートしているという事で、そのコミュニティー自体が異業種間の情報交換の場になればいいと思っていて、そういう交流の場をどんどん増やしていければいいなと思っています。また、こうした取り組みからも、仲間への貢献、新しい価値の発見を見据えて取り組んでいきたいですね。

※現在は大阪を拠点にしてバンデの幹部として関わりながら、大阪でも社会人サッカーチームを運営している。

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取材を終えて

キャリア、そして社会人サッカークラブの可能性の大きさを感じた取材だった。

PR の現場で覚えた違和感を見過ごさず、スタートアップの経営という “原野” に飛び込んだ決断力。その根底にある、日々の心の揺れ動きを丁寧に感じ取る自己分析の習慣。そして、「人ありき」という価値観を軸に、仲間と共に挑戦し続ける姿勢。森氏の真剣な表情から放たれる言葉の一つひとつから、継続力、責任感、そして共に歩む仲間へのリスペクトと愛情が伝わってきた。

また、社会人サッカークラブは、ただサッカーを楽しむだけではなく、繋がり、成長、そして実験。そうした新たなキャリアを開き得る可能性の一つになり得ることにも気付かされた本取材であった。

――あなたにとって、「リスクなく挑戦できる場所」はどこにあるだろうか。

今回も最後までご覧頂き、本当にありがとうございました。
Camffice では、今後も「社会人サッカー」そしてそのコミュニティーに属する「人」に対して取材を行っていきます。次回も是非ご期待ください。

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